For Those Who Want To Be Coaches
少子高齢化、グローバル化、情報化・機械化、今後の日本においてこの3つの流れは避けて通ることができません。2025年には75歳以上の後期高齢者の数は全人口の約18%にあたる2179万人という深刻な超高齢化社会に突入します。一方、人工知能や技術の急速な進展によって、私たちの生活はもちろん、既存のビジネスモデルや雇用にも様々な影響を及ぼすと予想されています。
このような時代の急速な変化の中で、個人も企業もこれまでの常識やパラダイムの変化が求められています。
新たなイノベーションを起こすには、一人一人の多様な価値観を活かし、第三の価値を生み出すような仕組みづくりが必要です。リーダーシップ、チーム創り、創造性などの重要性は高まる一方です。リーダーシップを発揮し、チームをまとめる。信頼関係を構築する。交渉を重ね、お互いにwin-winとなる展開に導く。人間関係を調整し、物事を前に進める。人を励まし、勇気づけ、モチベーションを上げる。人々を感動させる作品を創造する。どのような分野にあっても欠かせないのが人の心や感情への理解です。組織の活力を上げるためには、社員、上司、スタッフの心や感情を理解することが必要です。ビジネスを成功させるには、リーダー自身が心の専門家であることが求められています。 いまコーチングが注目されている所以です。
原則として、コーチングは、一対一の対話(対面、電話等)により行います。コーチングを受け、自ら行動を起こし、自らを変えたい、成果を上げたいと考えている人を「クライアント」と呼びます。コーチとクライアントの一連の対話を「セッション」と呼びます。
コーチは、クライアントが話したい特定のテーマをもとに、クライアントの話をしっかり聴き(傾聴)、問いかけ(質問)しながら、気づきを引き出し、クライアントが自ら答えを見つけ、行動するのをサポートします。
コーチがクライアントに答えを教えることはしません。コーチングでは、クライアントの可能性を信じ、すべての答えはクライアント自身が持っているという考え方に立ちます。
クライアントは自分のありたい姿や抱えている課題などのテーマについてコーチに話します。コーチはそれを聴きます。通常の会話では、相談を受けるとアドバイスや教えることをしがちですが、コーチングではアドバイスしたり教えたりするのではなく、クライアントに質問をします。
クライアントは質問されると考えるということをします。クライアントは自分の中で考えた答えを口に出し、コーチはその答えを聴き、さらに質問をします。クライアントは答えを考えることにより頭の中が整理され、それを話すと同時に自分の耳で聞くことにより気づきが生まれます。そしてセッションを終えた後、どのような行動をとるべきかがはっきりします。コーチはクライアントがその行動を実行できるよう、時に励まし、後押しします。
コーチングのスキルはたくさんありますが、代表的な5大スキルと呼ばれているのは、①認める、②聴く、③質問する、④フィードバックする、⑤リクエストの5つです。
なお、コーチングをするうえで最も大切なことは、クライアントとの間に信頼関係があることです。信頼関係がないと、どんなにコーチングスキルが高くても機能しません。
コーチングを行う前提として、コーチとクライアントの双方で「コーチングを行う」ことを合意していることが必要です。具体的な実施の目的や方法、守秘義務の合意を含みます。
セッションで話し合うテーマについては、基本的にはクライアントが決めます。クライアントが解決したい特定のテーマをもとに、クライアントが目指すゴールに向かって継続的に対話を重ねていきます。1回で終わることは少なく、クライアントの希望に合わせて、一定期間(3ヶ月から1年程度)にわたって行うのが一銀的です。1回あたりの時間は30分から60分程度です。回数については、テーマやクライアントの要望に合わせて決めていきます。
対面で行う方法と、電話やZoom、スカイプなどオンラインを使って行う方法があります。
コーチングとカウンセリングの最も大きな違いは支援の対象者が異なることです。
カウンセリングは、精神心理的な悩みを抱えた人を対象とした相談援助であり、治療的・予防的な処置に重点があります。そのため、どちらというと現在の状態に至った原因や過去に遡ってアプローチしていきます。
一方、コーチングは、相手の方の目標達成や能力発揮を支援し、将来どうありたいかを重視したアプローチをとります。
例えば、私たちの心の平常な状態をゼロとすると、過剰なストレスなどが原因でゼロの状態からマイナスの状態に陥ってしまうことがあります。そのマイナスの状態にある人をゼロにまで引き戻す役割を担う人がカウンセラーです。それに対して、ゼロの状態からプラスの方向に自分を成長させて、将来の目標達成に向けて頑張っていこうとする人をサポートするのがコーチングです。カウンセリングもコーチングも人の心を扱いますが、治療行為と成長のサポートというアプローチの大きな違いがあります。
しかしながら、コーチングとカウンセリングのスキルは共通する部分も多く、カウンセリングのスキルも多様で領域も広く、一概に言えませんが、イメージはこのようにとらえて頂くとよいでしょう。最近ではカウンセラーもコーチングに近い領域まで関わっている人もいますので、境界があいまいになっているのが現状です。
コンサルティングは、クライアントの問題や課題の解決が目的です。そのため、コンサルタントは現状を分析し、問題点や課題を見つけ、その解決に向けた最善の提案をします。コンサルタントが持っている知識・情報・ノウハウを用いて、アドバイスや指導を行います。 それに対して、コーチングは原則としてアドバイスや提案はしません。
コーチングは「人は無限の可能性がある」「答えは相手の中にある」という基本的な考え方に基づいて、相手の中にある可能性を最大限に引き出すためのサポートをしていきます。 コーチングのゴールは目標達成や行動の結果にありますが、結果のみならず相手の成長ということをとても大事にしています。
ティーチングは、学校教育に代表されるように、知識、情報、技術の伝達や習得を目的にしています。同じ内容のものを多くの人に同時に教えるのに適しています。それに対してコーチングは双方向のやりとりで個別対応であるところが特徴です。人工知能(AI)の登場などによって、学校教育もコーチング的な関わりが益々重要視されてきています。
なお、コーチングやカウンセリング、コンサルティング、ティーチングとの違いについてお伝えしてきましたが、現実にはクライアント(相手)の状況に応じて柔軟に使い分けていくことが求められています。
コーチには、その活動分野によって大きく「ライフコーチ」「ビジネスコーチ」「エグゼクティブコーチ」に分けられます。
「ライフコーチ」とは、個人個人がより良い人生を送れるよう、相手の方の人生全般をテーマに扱うコーチのことをいいます。そのためテーマは、ダイエットや婚活、転職など多岐にわたります。
「ビジネスコーチ」主にビジネス上の目標達成や課題解決をテーマに支援するコーチをいいます。本人が自分のためにコーチを雇うケースもありますが、会社が社員に対してコーチを雇うといった形で、会社から委託を受けて行うことも多いです。
「エグゼクティブコーチ」は、エグゼクティブ層(経営者や経営幹部)に対してコーチングを提供するコーチ」です。本来は、「選ばれたコーチ」という意味があります。
なお、一般社団法人日本エグゼクティブコーチ協会(JEA)は、「エグゼクティブコーチとは、自己基盤が確立され、自らと相手を心から大切にできる卓越したコーチング力を備えた経営者のパートナーである」と定義しています。
「エグゼクティブコーチ」は、経営者の個人的な問題から、経営者自身や会社の成長、社員の成長、利害関係者との調整まで幅広い分野を扱いますので、ライフコーチやビジネスコーチの枠を超えた広い視点が求められます。
コーチングを教えている機関によって、少しずつ考え方や教え方も違います。そのためコーチングの資格取得を目指す人は、誰を対象に、どんな支援をしたいのかを考えることが重要です。
コーチの資格は、民間のコーチング指導機関や団体が認定し、発行しているものです。
発行する機関や団体によってその基準や内容、認定基準が異なります。
指導する機関や団体の教育理念や目的と自身が学ぶ目的や将来目指したい方向に合わせて、受講する講座を選択する必要があります。
中小企業診断士などのように、法律に基づいた国家資格ではないので、国がその地位を保証するものではありません。しかしながら、各機関や団体の認定資格を得るには、必ず一定期間のトレーニングや試験に合格することを義務づけているところが多く、十分なトレーニングを受けたという証明にはなります。
民間資格とはいえ、プロコーチとしてビジネス活動していく以上、適格な機関や指導コーチからきちんとトレーニングを受けることは、対人支援を担うものとしてのマナーです。
国際コーチング連盟(ICF)は、(2019年9月現在)世界138カ国に31,490人の会員を有する世界最大のコーチ認定機関です。
同連盟が発行している資格には、トレーニング時間や実績によって、
の3種類があります。
これらの同連盟が発行する資格の中で、最も入門的な基準資格となっているものが、ICF認定資格アソシエート認定コーチ(ACC)です。
アソシエート認定コーチ(ACC)の資格を取得するには、ICFが認定したコーチ・トレーニング・プログラム(ACTP)を修了するか、60時間以上のコーチ専門プログラムの受講と証明書類の提出などが必要です。
受験手続の煩雑さ等から日本ではまだ取得している人が少ないですが、国際的に活動したいという人や講師・指導者を目指したいという人には特に取得をお奨めします。
一般社団法人日本エグゼクティブコーチ協会(JEA)では、エグゼクティブコーチの基準に達していると判断した人を『JEA認定エグゼクティブコーチ』として認定証を発行致します。
現在コーチングスクールや指導機関の数も増えてとても学びやすくなりました。一方、指導内容や指導法、受講期間、受講料も各機関によって大きく異なるため、どのスクールを選んだらよいのか迷うところです。
ここでは、プロコーチを目指すうえで、スクールを選ぶポイントをお伝えします。
スクール選びのポイントは、①目的(目指すコーチ像)に沿ったカリキュラムや指導者であること、②指導コーチが、国際コーチング連盟認定コーチまたはそれに準ずる実績を有するコーチであること、③一定のトレーニング時間(目安は国際コーチング連盟が定めている基準の60時間以上)を有していることの3点です。
コーチビジネス研究所(CBL)コーチングスクールでは、中小企業経営者のパートナーコーチを目指すエグゼクティブコーチに特化した独自のプログラムを提供しています。
CBLコーチングスクール「SMEエグゼクティブコーチ養成講座」
通信教育や動画などを使ったeラーニングで学ぶ方法もあります。自己流にならないよう注意が必要です。コーチングセッション実践会などに参加して実践を積むことが望まれます。
コーチングの書籍もたくさんあります。本で学ぶこともできますが、コーチングは体得することが大切です。本で知識を得ることはできてもコーチングを活用できるレベルまで持っていくには実践演習が欠かせません。コーチングセッション実践会などに参加して経験を積むことが必要です。
コーチングをビジネスで活用している人の実例やコーチングの基本を理解するうえで役に立つ書籍を以下にご紹介します。
コーチング・ビジネスのすすめ「女性に最適! ゼロから始める夢資格」 五十嵐 久(著)
100のキーワードで学ぶ「コーチング講座」 原口 佳典(著)
コーチングの会話の基本型は、一般的に「GROWモデル」と呼ばれる下記の手順に沿って行われています。GROWとは英語で「育てる」という意味ですが、下記の①から④の英語の頭文字をとったものです。
①「GOAL」ゴール(目標)の明確化、⇒②「REALITY」現状の明確化、「RESOURCE」資源の発見、⇒③「OPTIONS」選択肢の創造、目標と現状のギャップを埋める方法の発見、⇒④「WILL」目標達成の意志、行動の具体化の4つになります。
スケーリングとは「ものさしで測る」という意味です。コーチングでは、「理想の状態を10点とすると、今の状態は何点ですか?」「10点満点のうち、今どのくらいできていますか?」といった質問を投げかけ、目標に対する現在の達成状況や精神状態を数値化して、相手の今の状態を確認する場合などによく用いられます。数値化することで、クライアントに客観的な視点をもってもらう効果と行動を具体化することにもつながります。
アイスは「氷」、ブレイクは「壊す」と訳されますが、アイスブレイクとは、「氷を溶かす」という意味になります。コーチングのみならず、研修や会議の場面でも使われるテクニックの一つで、いきなり本題に入らずに、場を和ませるような会話をして、場の緊張を解くための方法です。「今日は寒いですね」「暑いですね。」などと気候の話などがよく使われます。クライアントの趣味など相手が得意な話題や共通の話題から入るのも一つの方法です。
ラポール(rapport)とは、臨床心理学でセラピストとクライアントとの「信頼関係」を意味する用語です。語源とされるラテン語では「架け橋」「絆」という意味があると言われています。
クライアントがコーチに抱く安心感や解放感、信頼を「ラポール」といい、コーチングを進めるうえで、とても大切な要素です。クライアントがコーチに対して安心感を抱くことができれば、クライアントは本音のことを話しやすくなります。コーチがクライアントへ「ラポール」を抱かせることを「ラポールをつくる(ラポールを築く)」と言います。
具体的には、相手の名前を呼ぶ、コーチの体験談や想い等を自己開示する、守秘義務があることを告知する、相手を信頼して全てを受けとめる、といった方法があります。
聴く力は、コーチングにおいて最も重要で基本となるスキルです。目的は「クライアント(相手)に気持ちよくたくさん話してもらう」ことにあります。そのためには、相手の話の内容に心からの関心や興味を示し、言っていることのみならず、言葉にしていないことも積極的に聴き取り、相手の意図を深く理解しながら聴くようにすることが必要です。相手の気持ちになりきり、相手と同じキャンパスに向かい、相手と同じ景色を見ているような感覚を持ちながら話を聴きます。
「君の話からは、何かまだ気がかりが聞こえてくるよ」などと、感じ取ったことを相手に返してあげたり、「僕には、まだ何か不安げに聞こえるけど、本当のところはどうなんだい」といったように、聴き手は、話し手が本当に言わんとしていることを、受け取っているかを確かめてみるのも効果的です。
このレベルの「聴く」は、二人の間に安心感や深い信頼感を生み出します。更には、相手は自分の言葉によって自己を知ることができます。この自分の中にある多くの考えや感情が言語化されて整理された時、人は自ずと答えを探すことができます。この、相手が自己発見をするサポートが、コーチの聴く目的です。
私たちは人の話を聴いていると思っています。ところが私たちが人の話を聴くときに、阻害要因になっているものがあります。それは次のようなことです。
この考えは「自分が正しく、相手は間違っている」ということを証明するようになります。そして、違った意見を聞き続けると、相手の意見が正しいことになる(相手に負ける)と思い始めるのです。
相手を支援しようとする気持ちよりも、自分の感情に捕らわれてしまう。相手の話を聞く前に、まずは自分の心を安定させることが大切です。
相手の「役に立つ」ことを強く望むと、良かれと思いから何とか相手を変えようとします。これは「自分が必要」と思われたい願望の裏返しでもあり、相手の幸福のための行為ではないのです。
聴き手の倫理観や道徳観、描く理想像に縛られ過ぎると無駄なエネルギーを消耗し、得るものも少なくなります。価値や理想は人それぞれに存在するので、まずは相手の価値観を尊重しましょう。
クライアント(相手)にペースを合わせることです。話す速度や、声のスピード、トーン、呼吸、しぐさ、姿勢、表情等を合わせることにより、話しやすい雰囲気をつくることができます。
クライアント(相手)の話に興味を示し、聴いていることの意思表示をします。
(例)「うんうん」「なるほど」「へえ~」
クライアント(相手)の言葉を繰り返します。自分の言ったことがクライアント(相手)に伝わっているという印象を与えることができます。
(例)A「気分がよくないです」 B「気分がよくないのですね」
クライアント(相手)に、よりたくさん話してもらうための方法です。
(例)「それで?」「それから?」「他には?」
クライアント(相手)の言葉を途中でさえぎったりせず最後まで聴くようにします。またクライアント(相手)が考えているときには、クライアント(相手)に考えをまとめる時間を与え、沈黙して待つということが大切です。
クライアント(相手)の言ったことを要約したり、言い換えてみることで、クライアント(相手)の真意を理解するようにします。
コーチからの質問を受け、クライアントは自分の頭で考え、自ら答えを生み出していきます。
質問に答えるためにはまず自分で考えなくてはならず、考えるプロセスで頭の中が整理され、棚卸しされていきます。効果的な質問は、頭の中の漠然としていた考えをより具体的なものにしていくことに役立ち、視点を変えて新たな可能性を見出すことを助けます。また、質問によりゴール達成のための具体的手順を明らかにしていくため、行動を促すことにもつながります。
通常の質問の目的は、質問する側の「情報収集」であり、質問する側のために行いますが、コーチングにおける質問は、相手、つまり質問される側の「気づき」を促す等相手のために行います。
クローズドクエスチョンとは、Yes/Noで答えられる質問です。相手の言ったことを確認したり、決断を促したりする際に効果的です。オープンクエスチョンとは5W1Hの質問で、広がりのある答えを引き出すことができます。
クローズドクエスチョンを多用すると、相手は話したいことを十分に話せなくなり、誘導尋問になりがちですので注意が必要です。
チャンクダウンとは、かたまりをほぐす(具体化する)ことを言います。5W1H(いつ)「どこで」「誰が」「何を」「どのように」の質問を使って具体化していきます。
チャンクダウンの反対は、チャンクアップです。「要するにどういうことですか?」「一言で言うとどういうことですか?」のように、本質を掴む、全体を把握するといった時に有効です。
「認める」とは、文字通り、相手を認めることであり、相手の言うことをそのまま受け止めることです。ありのままの事実や存在あるいは変化を、ただそのまま受け止め、認めます。内容について同意することではなく、評価や比較もしません。
「認める(承認)」には、①存在承認、②成長承認、③成果承認の3つがあります。
①存在承認とは、その人の存在そのものを認めることです。名前を呼ぶ、挨拶をする意見を求める、声をかける、仕事を与えることなどがそれに当たります。
②成長承認は、昨日よりも今日一歩でも成長できたところを認めてあげます。相手の変化や成長に関わる事実を具体的に伝えることです。
③成果承認は、成果を伝えることです。「ほめる」こととも言えます。 「ほめる」と「認める」は違います。「ほめる」とは、相手の良い点や上げた成果を取り上げ、相手を肯定的に評価し、それを伝えることです。それに対して、「認める」は、事実・存在をそのまま伝えることであり、肯定・否定に関わらず、評価を含みません。
「ほめる」ことは承認の一部ではありますが、すべてではありません。「ほめる」のは、相手が何か成果を出したときです。言い換えれば、成果を出さなければ、「ほめられない」ということが起きます。認める(承認)ためには、条件はいりません。
コーチングでは、コンサルティングのように提案やアドバイスは原則として行いません。ただし、以下のような目的をもってコーチはリクエスト(要望・要求)をすることがあります。
コーチングにおける主役はクライアントです。提案や要望は、あくまでクライアントのために行います。コーチングにおける提案・要望は、クライアントが自発的に考え、自分の意志で選択し、自分で行動計画を立てるというプロセスをより効果的に行い、クライアントが最大の成果を得ることができることを目的として行います。
相手の話を聴いて、感じたこと、見えたこと、聞こえたこと等をそのまま伝えることです。目的は、「相手の気づきを促す」ことにあります。コーチは相手の“鏡”の役割を果たし、相手の感情や思いを感じ取り、伝えます。仮にそれらが相手の思いや話している内容と違っていたとしても率直に伝えます。
ポジティブなこともネガティブなことも、正直に伝えます。そうすることで、「気持ち」や「想い」「認識」を共有することができます。
時には勇気が必要です。
「こんなことを言ってしまっていいのだろうか」「相手に失礼ではないだろうか」「こんなことを言ってしまったら嫌われてしまうのではないか」「相手を傷つけてしまうのではないか」
といった思いを克服することが求められます。相手に対する尊敬や思いやりの気持ちが大切です。
自分の直感に耳を傾け、自分の思いに正直でいる強い意志が求められます。直観を信じ、感じたことをそのまま相手に伝えます。長々としたフィードバックは効果が損なわれます。簡潔に短く行うのがポイントです。
「フィードバック」によって、相手は新しい視点を見出したり考えが変わったりするような大きな気づきが促されることもあり、フィートバックを求めるためにコーチをつけると言われるくらい重要なスキルです。
(例)「聴いていて感じたこと伝えていいですか?」
「私には、○○のように感じ取れます。」というように、「I(私は)」を主語にして伝える方法です。
(例)「私には、あなたが本当にやりたいことは別にあるように聞こえてきます」「私には、あなたが何か別のことを考えているように伝わってきます」「私には、あなたが不安に感じているように聞こえます」
これに対して、「Youメッセージ」では、「あなた」が主語になります。
(例)「あなたには、本当にやりたいことが別にあるはずです」「あなたは、不安を感じているに違いありません」
このように、「あなた」を主語にすると、コーチ側の決めつけや先入観を相手に押し付けているように感じとられ、相手が主体的に「気づく」ことを妨げてしまいます。信頼関係が十分にできていないと、反発を招く恐れもあります。
(例)「お話を伺っていると、○○のように感じとれますが、そうですか?」
コーチの「視点を変える」質問によって、クライアントは、自分自身の思い込みや世の中に対する硬直的な見方から脱することができます。視点を変えることで、クライアントが直面する「壁」を突破でき、新たな発想が生まれ、可能性に気づくことがあります。
具体的には次のような質問が視点を変えることに役立ちます。
移動の種類 | 立つべき視点 | 質問例 |
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視点の主体を変える | コーチには何が見えるか | 「〇〇さんの話を聴いていると、私には、〇〇さんがまだ本気でそのことに取り組むように感じなかったのですが、本心はどうですか?」 |
対象者には何が見えるか | 「相手はどう感じていると思いますか?」 「相手の人から見たら、この件はどのように映っていますか?」 |
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第三者には何が見えるか | 「あなたの親友なら、あなたにどのようなアドバイスをすると思いますか?」 「あなたが社長と仲が悪いことで、一番迷惑を被るのは誰ですか?」 「それをすることで、会社にはどのような影響がありますか?」 「社会的にはどのような意味がありますか?」 |
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視点を事実に向ける | 事実を整理する | 「何があったのか、話して頂けますか?」 |
事実を確認する | 「そう思ったのは、具体的にどのようなことがあったからですか?」 | |
視点を肯定に向ける | 「セッションを始めてから、できていることは何ですか?」 | |
視点を細分化する | 「まず、何から始めることができますか?」 | |
数値化の視点に立つ | 「理想の状態を100としたら、今はいくつですか?」 「現状の満足度について、最高を10としたら、今はいくつですか?」 |
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視点の時間軸を変える | 将来からの視点に立つ | 「5年後にはどうなっていたいですか?」 「30年後の自分から今の自分に声をかけるとしたら、何て言いますか?」 「その問題をそのままにしておくと、将来的に何が起きますか?」 「ではいつ頃までに対処すべきでしょうか?」 「あなたが望む結果を得るために、今やらなければならないことは何ですか?」 「逆にやめた方がいい習慣はありますか?」 |
過去からの視点に立つ | 「(仕事などが)うまくいった時はどうでしたか?」 「その問題はいつごろから起こっているのですか?」 「その問題が発生する前と、発生した後で大きく違う点は何でしょうか?」 |
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視点を仮定に向ける | 制約条件を無視した視点に立つ | 「もし何の制約もなかったら、どうしたいですか?」 |
制約条件を加えた視点に立つ | 「もし余命1ヶ月と宣告されたら何をしたいですか?」 「もし明日で世界が終わるとしたら、どうしますか?」 |
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目標とする人物の視点に立つ | 「あなたの尊敬する〇〇さんに近づくために、最も必要なことは何だと思いますか?」 「あなたがマザー・テレサだったとしたら、どんな人をサポートしたいですか?」 「もしあなたが坂本龍馬だったとしたら、何をすると思いますか?」 |
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視点を外部のリソースに向ける | 「あなたの力を倍増させてくれる協力相手がいたとしたら、どんな人が浮かびますか?」 「あなたを助けられる人がいるとしたら、まずは誰が思い浮かびますか?」 |
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視野を広げる | 視点を感情に向ける | 「その目標を達成したとき、あなたの心の中では、どんな感情が湧きあがっていると思いますか?」 「それをやっていて、どのような気持ちがしますか?」 |
飛躍の視点を持つ | 「目標を達成したその先にはどんな景色が見えますか?」 「あなたは、もっとできると思います。目標を2倍にしてみませんか?」 |
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視点を原点に戻す | 「そもそも、そのことを実現したいと思ったのは何があったからですか?」 「セッションを通じて達成したいゴールを、もう一度確認してみませんか?」 |
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全体の視点を持つ | 「宇宙から見たら何が見えますか?」 「仕事以外では、どんなことが気がかりになっていますか?」 |
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